私はこう考える

地域の実情にあった医療を考える

大網白里町は医療過疎地ですか?

地域医療のことは皆さん関心が強い。千葉県の調査でも常に上位にランクされている。
問題はそれぞれの地域でどんな医療が必要かだ。山武郡は医療過疎だと言われるが、少なくとも大網白里町が医療過疎地だという研究報告を聞いたことはない。東金や大網白里には優秀なクリニックが多い。東京と比べて言うと日本中過疎になってしまう。それでも医療過疎だとマスコミ等が言う理由は、①10万人あたりの医師数の数が県下でもっとも少ないこと、②3次救急病院がないこと、この二つがよく言われる。これに併せて③救急搬送の管外搬送率が高いことと、④搬送先までの時間が長くかかることがあげられる。
さて、これらについて少し考えてみよう。

10年後の医療・保健・介護体制をどうするのか

①の医師の数が少ないこと、これは事実ではある。そもそも日本がOECD加盟国中最低レベルの医師数である。これは長い間自民党と日本医師会が医師数抑制政策を続けていたことが原因だ。その結果、公立病院等の勤務医や小児科や産科などで医師不足が顕著だ。それでも日本の健康保険制度や医師や病院のレベルと切り離して外国や他県と比べてもあまり意味がない。
千葉県や埼玉県は平均年齢が若く、総人口が多い。人口比で医師の数が少なくなるのは当たり前だ。例えばある離島に医師が一人いるとしよう。その離島は人口比では医師の数が上位にランクされるが、その医師一人だけで地域医療は完結されないだろう。地方にいけば医師がもっともっと少なく感じるところが日本中にたくさんある。人口密度が低いところは、当然病院までの距離も長くなる。
千葉県や埼玉県において今後の問題は、団塊の世代が10年後に75歳をむかえはじめ、慢性疾患(糖尿病など)患者の激増にどう対処していくかである。おそらく山武以上に千葉市や東葛地域の医療は深刻であろう。山武郡でもそれに似た傾向が予想されるので、10年後にむけて、2次救急医療の充実と慢性疾患にきちんと対応できる診療所が連携(病診連携)していくことが求められる。そして医療に頼り過ぎるのではなく、保健分野、介護分野がますます重要になってくる。健康寿命を延ばす施策こそ地方自治体の得意分野だと考える。

3次救急病院って必要ですか

②の3次救急病院について、ここ10年くらい常に山武郡では問題になっている。現在東金市の工業団地(八街市や千葉市に近い場所)に3次救急を標榜した医療センターの建設が進められている。
3次救急、2次救急、1次救急とは何かというと、1次は風邪などの簡単な病気やけが、診療所や大網病院の外来の一部などで行われている治療。2次救急とは、入院が必要や病気やけが。大網病院、東金病院、さんむ医療センター(旧成東病院)などで行われている医療。3次救急とはさらに患者が重篤な状態の病気やけが。患者1000人に1人の割合と言われている。3次救急病院を支えていくには、近隣人口が60万人位必要とも言われている。
3次救急病院を維持していくには、山武郡にある小さな市町村では難しい。国や県から大きな支援が必要だ。そして3次救急の大きな病院を維持するには多くの医師や看護師、コメディカルが必要になり、東金に計画されている医療センター計画をみると、既に破綻していることがわかる。千葉県は建物に10年分支援をすることを表明しているが、この数年で新しく建てられた立派な医療センターで経営がうまくいっているところはない。日本中でどこもうまくいっていないのに、人口も医師数もお金も足りない東金市・九十九里町でうまくいく可能性はゼロと言っても言い過ぎではない。病院のハコモノだけ建てて、数年後には民間病院(公的医療は縮小される)に売り飛ばされて、借金だけ地元に残ることになりかねない。つぶれるまでの数年間はさんむ医療センターや大網病院と患者の取り合いになり、気がついたらこの地域の公的医療が全てなくなる事態さえ危惧する。

保健医療圏が変更された

ところで3次救急病院は近くに一つもないのか?県が病院を許可したり、医療計画をたてるときに使われる地域割りがある。これを保健医療圏という。最近まで山武郡は印旛郡と保健医療圏が一緒だったから3次救急病院は成田日赤と日大印旛の2つもあるとされていた。それが最近になって長生・夷隅と山武を一つの医療圏にしたことで3次救急病院がなくなった。東金に新病院を建てるために医療過疎同士を統合したとも考えられる。しかし新医療圏で考えると夷隅・長生・山武の中心は長生だから茂原市にこそ千葉県は医療予算ををつぎ込むべきだと茂原市長は怒っている。県の線引きが変わっただけで道路や鉄道に線が引かれているわけではない。もともと夷隅郡は鴨川市の亀田病院に近いし、山武郡北部は旭中央病院が近い。芝山町から勝浦市までの巨大な保健医療圏で全ての医療を完結させることは実態を反映していない机上の空論だ。大網白里町は、千葉市に近く、県の子ども病院などもすぐそばだ。無理して立派な3次救急病院を維持して地域医療が崩壊するより、2次救急(かつて東金病院及び成東病院は2.5次と言っていた)を充実することが住民にとってより多くの利益があると思われる。

救急は、初期治療が大切!

③④の救急搬送について論じるには、中身を細かく検証しなければならない。
管外搬送率が高いことと時間が長くかかることは当然ながら関連がある。より時間がかかる理由は、搬送病院が遠いことではなく、搬送先が決まらないことが主な理由だ。近くに病院がないことではなく、近くの病院に医師や夜間救急の体制が整っていないことなどが主な理由だ。患者も1次、2次救急患者の救急搬送が多く、救急車を使う必要のない患者も多い。管内の2次救急医療を充実させることと、救急救命士による的確なトリアージ(患者をどの病院につれていくのが最も良いか選択すること)も必要だ。
数年前、夜間救急の輪番体制が崩壊したことも管外搬送率を押し上げた理由の一つだ。最近改善新たに九十九里病院などが輪番に入り、改善が進んでいる。夜間救急の輪番体制が崩壊したのは、千葉大医局が県立東金病院から医師を引き上げたことがきっかけだった。事情はいろいろあるが、県立病院のことは、千葉県の責任が一番重い。千葉県は、夜間救急輪番体制を充実させるようもっと力を割かねばならない。
他にも電話相談などの充実や、患者への啓発も必要だろう。
幕張にある千葉県救急救命センターのセンター長が山武郡の救急救命士は優秀であるとお話されていた。千葉県救急救命センターは3.5次救急を標榜している日本でも優秀な病院で、山武からも多くの患者を受け入れている。その救命センターが老朽化で立て替えが課題になっているが、現在の幕張の土地での立て替えは技術的に無理なので、高速道路のインターチェンジに近い場所への立て替えが検討されることになる。そうなればますます安心になるだろう。また千葉大学付属病院も千葉県内で2例目の3.5次救急に向けて病院の新設などをはじめている。
病気やけがの実状についても少し考えてみよう。今後は慢性疾患が一番の課題だと既に申し上げているが、それでも急病や交通事故の心配は常にある。さて救急搬送時間が50分から40分になったら劇的に何かが変わるのだろうか。これで助かる命が増えるかどうかは時間だけの単純な問題ではない。先ほども触れたように例えばトリアージが非常に大切だ。時間が短くなればどこでも言い訳ではない。最適な病院に運ぶ必要がある。主に救急車で一刻を争う事態が考えられるのは、交通事故などか、病気では心臓や脳疾患である。日本で最も死亡率の高い癌については、患者は近くの病院を選ぶのではなく、がんセンターなどを選択することも多い。

くも膜下出血で生還した友人

では、一刻を争う心臓や脳疾患で病院までの搬送時間が50分から40分に短縮されて劇的に病気が改善されるのか考えてみよう。心臓や呼吸が5分も止まれば救命率は激減する。必要なのは優秀な救急救命士が早く駆けつけることと近くの病院(大網病院など)で適切な初期治療をすることだ。2年前に重篤な状態のくも膜下出血で倒れた友人が東金病院にすぐ運ばれ、すぐに病院長が初期治療を施し、その後千葉北にある脳外科医院に搬送された。手術が一刻を争うと思っていたら看護師が言うにはそれは10年前までのことと笑われた。一刻を争うのはいかに早く適切な初期治療を行うかで、手術事態は数日後に行うそうだ。くも膜下からの出血がひいていき、かつ血管が堅くなる直前のタイミングを狙いオペを決行するとのこと。まさに東金病院長みずから的確な初期治療を行ったおかげで、友人は奇跡的に後遺症もほとんどなく死地から生還した。
交通事故で多臓器が損傷したり、重度のやけどは幕張の救急救命センターなどでしか治療できない。ドクターヘリなどの充実が課題だ。

地域の医療は地域で選択し、ハコモノ優先は軌道修正を!

高負担覚悟でも地域の人々がそれを選択するというのまで否定するつもりはない。計画中のセンター病院では1日あたりの入院単価を45000円と想定している。現在の大網病院や東金病院より1万円も高い高度医療だ。このような患者でいっぱいにならなければ経営がなりたたない病院だ。当然外来患者は制限されることになる。紹介状のない患者はうけいれないような高度医療専門の病院にならなければ計画どおりの医業収入は得られない。
一方で大網病院の医療内容が縮小されて不便になる可能性も踏まえて病院計画は考えるべきだ。東金に計画されているセンター病院のハコモノ建設は進んでしまう可能性が高い。しかし、地域の医療全体が破綻する前に、医療内容や規模を、そして医師や看護師の配置などを見直し、現在の地域医療を担っている大網病院や東金病院、さんむ医療センターなどと連携する(病病連携)方向で軌道修正するべきであろう。(2011年10月11日 記)

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